BtoB企業において、商品やサービスの導入事例を作成する際、「事例」と「実績」の違いを正確に理解している担当者は意外と少なくありません。
この違いを把握せずに制作を進めてしまうと、内容がぼやけてしまい、成果につながる導入事例を作るのが難しくなります。
また、制作過程では社内調整や素材の収集に手間取るケースも多く、十分な情報がそろわないまま公開に踏み切ってしまうことも少なくありません。
さらに、せっかく作成した導入事例が、営業やマーケティングの現場で十分に活用されないという課題もあります。
本記事では、BtoB領域で導入事例を制作する企業担当者のために、「事例」と「実績」の違いやその活かし方、社内調整のポイント、効果的な構成法などを体系的に整理し、成功事例に導くための具体的な視点を解説します。
目次
事例と実績の違いを理解し、導入事例BtoBで活かすには
「事例」と「実績」という言葉は似ているようで意味が異なりますが、導入事例BtoBの制作においてはこの違いを明確に理解しておくことが極めて重要です。
事例は取り組みや導入の背景、課題、プロセスなどを描写し、「なぜ」「どうやって」の視点を中心に伝えます。
一方、実績は具体的な成果や数値、到達点など、「何が得られたか」という視点で語られるものです。
この2つを混同してしまうと、読者にとってわかりにくい事例になってしまい、説得力や納得感が薄れてしまいます。
特にBtoBの現場では、営業資料や顧客提案時に導入事例を活用するため、情報の明確さと信頼性が問われます。
適切な使い分けをすることで、訴求力のある導入事例BtoBを制作できるようになるのです。
「事例」と「実績」の定義の違い
事例は主にプロセスを重視し、顧客が抱えていた課題に対して、どのようなアプローチを取り、どのような工夫や判断を経て改善・導入が実現されたかを物語るものです。
そのため、事例の中では「背景」「課題」「実施内容」「プロセスの変化」などが主な構成要素となります。
一方、実績は結果や効果に焦点を当て、「売上が◯%増加」「問い合わせが◯件増加」「業務時間を◯時間削減」といった、成果や数値として示せる結果を強調します。
導入事例BtoBでは、この2つを適切に組み合わせて初めて、読み手にとって意味のある価値を伝えることができます。
「事例」は課題と対応の記録
顧客が抱えていた課題を明確にし、どのような経緯でソリューションに至ったのかを記録したのが「事例」です。
BtoBの導入事例においては、課題に対する企業の視点、部門横断的な取り組み、導入に至るまでの検討のプロセスなどが含まれるため、ストーリー性を持たせやすいという特徴があります。
また、他の顧客が「自分たちにも当てはまる」と感じる共感ポイントが多く、課題解決の流れを理解してもらうには有効なパートです。
「実績」は成果数値と結果の明示
一方で、「実績」は導入後に得られた具体的な効果や成果を数字で明示する部分です。
たとえば、導入後3ヶ月で問い合わせ件数が120%増加、月次作業が20時間削減されたなどの数値は、読み手にとって非常にわかりやすく、導入効果をイメージしやすくなります。
このような実績は説得材料としても強く、営業資料や提案書に引用されやすい要素となります。
導入事例BtoBにおける「事例」「実績」の位置づけ
導入事例BtoBでは、業種やターゲット顧客の関心によって「事例」と「実績」のどちらに重きを置くべきかが異なります。
たとえば、製造業では導入プロセスの安定性や他社導入時の具体的な取り組み(=事例)に重きが置かれ、IT業界では導入効果やKPI達成などの成果(=実績)への関心が高まります。
また、営業トークの中でも、課題解決の流れを共有することで信頼を獲得する場面と、実績の数字を見せて即効性を訴求する場面の両方が存在します。
どちらを強調するかは、顧客との関係性や営業フェーズに応じて使い分ける必要があります。
導入事例制作の初期段階で、読み手がどのような情報を重視するかを想定し、「事例」と「実績」の役割を明確に定義することが成果につながります。
製造業における事例と実績の価値の違い
製造業では、導入プロセスの安定性や実績の再現性が求められる傾向にあります。
たとえば、製造ラインへの新設備導入事例では、段階的な導入プロセス、現場スタッフへの研修状況、トラブル時の対応策などの「事例」要素が重視されます。
一方、稼働率向上や歩留まり改善といった「実績」も必要ですが、それがいかにして実現されたかという背景を求める声が大きいため、事例が実績を支える構造が理想です。
IT業界における事例と実績の見せ方
IT業界では、短期間での効果やKPI達成など、「実績」を前面に出すことで訴求力を高めることが多くなります。
SaaSやクラウドサービスの導入事例では、「CVR◯%改善」「導入3ヶ月でROI達成」などのインパクトのある成果指標が重視されます。
ただし、導入企業の課題や選定理由、スムーズに導入できた工夫などの「事例」要素も含めることで、成果の信憑性が高まり、読み手の納得感が増します。
導入事例BtoBで事例と実績を活かす社内調整と準備
導入事例BtoBを制作する上では、まず社内で必要な情報を集める準備が欠かせません。
「事例」と「実績」を適切に取り扱うには、営業部門やカスタマーサポート、マーケティング、法務部門など複数の部門との連携が必要です。
それぞれの部門が持つ情報を整理し、責任範囲や公開可否を事前にすり合わせておくことで、後々の手戻りを防ぐことができます。
特にBtoB企業では、情報の機密性や顧客との関係性も影響するため、公開できる範囲を明確にしたうえで事例と実績を活かす必要があります。
ここでは、合意形成のための社内調整方法や、ヒアリングで活用できるテンプレートについて紹介します。
社内関係者との合意形成のステップ
導入事例の制作において、社内の関係者が多いと調整コストが高くなりがちです。
事例と実績の情報を共有する際には、誰がどの情報を管理しているのかを可視化することが最初のステップです。
その上で、公開の目的や想定する使用シーン(営業ツールとして/プレスリリースとしてなど)を説明し、必要な協力を得ることが大切です。
また、情報公開に対して慎重な部門がある場合は、公開範囲を限定するなどの調整案を提示することで前に進みやすくなります。
社内説明会の実施タイミングと資料の工夫
説明会は制作初期段階で行うのが効果的です。
事例と実績の扱い方や目的、成果イメージを資料で示すことで、協力の必要性を伝えることができます。
特にデザインや完成イメージのサンプルを提示すると、理解が深まりやすくなります。
関係部署の合意取りまとめフロー
チェックフローや合意取得の手順を明文化しておくことも有効です。
とくに実績に関する数値情報は営業部門や顧客側との整合が必要になるため、誰が責任を持つのかを明確にしておきましょう。
マーケ・営業・法務の3部門が最低限の確認対象になるケースが多いため、それぞれの責任範囲を一覧表などで整理しておくと便利です。
事例と実績の収集に役立つテンプレートと質問例
「事例」と「実績」を収集する際には、あらかじめ整理されたテンプレートやヒアリングシートを活用することが効率的です。
情報が断片的であったり、部署ごとに持っているデータがバラバラだったりすると、統一感のある導入事例に仕上げるのは困難になります。
そこで、導入背景・課題・取り組み内容・成果といった4つの軸に沿って情報を整理すると、論理的でわかりやすい構成が作りやすくなります。
また、顧客へのヒアリングにおいても、どのような質問をすべきかを事前に設計しておくことで、聞き漏れや誤解を防ぐことができます。
ヒアリングシートに必要な質問項目
ヒアリングシートは、主に以下のような項目で構成すると効果的です。
- 導入前の課題・悩み:どのような問題を抱えていたか
- 選定理由:自社の製品・サービスを選んだ決め手は何か
- 導入プロセス:社内での検討過程や稟議の流れ
- 成果・実績:定量的・定性的にどのような効果が得られたか
これらの質問を軸にすることで、事例はストーリーとして、実績は成果として明確に切り分けながら情報を整理することができます。
顧客インタビューの進め方と注意点
顧客へのインタビューでは、信頼関係を築いた上での丁寧な聞き取りが重要です。
とくに成果に直結する数値や社内の工夫、導入後の感想などは、企業によっては慎重に扱われる場合があります。
録音の有無や文面化の可否、匿名表記の確認なども含めて、事前に取り決めておくとスムーズです。
また、インタビュー前に質問項目を共有し、顧客が準備しやすい環境を作っておくことも効果的です。
導入事例BtoBで事例と実績を効果的に伝えるストーリー設計
導入事例BtoBの魅力を高めるためには、単に「課題」と「成果」を並べるのではなく、それらを結びつけるストーリーの設計が重要です。
とくにBtoBでは、顧客の導入検討プロセスが長期にわたるため、読み手が自社の状況と重ねて想像しやすい構成が求められます。
「なぜその商品を選んだのか」「導入時にどのような工夫があったのか」「成果はどのように現れたのか」といった流れを論理的に描くことで、訴求力の高い導入事例を作ることができます。
ここでは、実際に活用される構成のパターンや、説得力を高めるテクニックを紹介します。
ビフォー・アフター構成の型を使う
もっとも代表的な構成法のひとつが「ビフォー・アフター」型です。
導入前にどのような悩みや課題を抱えていたのか(Before)、そして導入後にどのように変化したか(After)を明確に示すことで、説得力のあるストーリーになります。
この型を使うことで、読み手に「自社も同じ状況だった」「この改善策は自社にも活かせるかもしれない」といった想起を促すことができます。
導入前の課題提示で共感を得る方法
課題提示の際には、具体的なエピソードや数字を交えて記述することで、読み手の共感を得やすくなります。
たとえば「営業活動が属人的で成果が安定しなかった」「問い合わせ対応に時間がかかり、対応漏れも多かった」といった実情を丁寧に描くと、よりリアルな印象を与えます。
導入後の変化と成功要因の描き方
成果を語る際には、単なる結果ではなく、「なぜ成果が出たのか」「成功の要因は何だったのか」に踏み込むことが大切です。
施策の中で特に効果的だった部分や、社内の工夫、導入担当者の視点などを加えることで、説得力が格段に上がります。
数字と証言で信頼性を高めるテクニック
導入事例BtoBで「事例」と「実績」をより信頼性のあるものにするためには、数値データと顧客の声を組み合わせることが効果的です。
読者は具体的な数値に裏打ちされた成果に強く反応する一方で、実際の担当者のリアルな証言にも安心感を覚えます。
この2つをバランスよく組み込むことで、事例全体の説得力が増し、読み手の納得感が飛躍的に向上します。
ここでは、その際に意識したいポイントや表現方法を紹介します。
KPIや成果指標の明確な記載例
成果を定量的に示すためには、KPI(重要業績評価指標)を明確にし、その変化を数字で表現することが基本です。
たとえば「CVRが0.8%から1.4%へ改善」「業務時間が月30時間短縮された」などの表現は、読み手の信頼を得やすくなります。
また、表やグラフを活用して視覚的に伝えるのも有効です。
顧客インタビューから得られる効果的な証言
インタビューの中で得られたコメントは、適切に引用することで読者の共感を得る材料になります。
たとえば、「以前は資料作成に毎週5時間かかっていましたが、今は30分で済みます」といった言葉は、数字と感情の両面からインパクトを与えられます。
証言はできるだけ具体的に、人物や部署を明記した形で掲載するのが望ましいですが、匿名化する場合でも背景を簡潔に添えると信憑性が高まります。
導入事例BtoBにおける事例と実績の公開・活用ノウハウ
導入事例BtoBにおいて、「事例」と「実績」を効果的に伝えた後は、それをいかに社内外で活用するかが重要なポイントになります。
社外向けにはWebサイト、提案資料、展示会、営業資料として展開され、社内向けには営業ナレッジの共有や新入社員教育などにも使われます。
このように、多様なシーンで活用されるため、公開時の形式・媒体・表現方法について事前に設計しておく必要があります。
また、顧客の承諾取得や、公開後のフォロー体制も含めて仕組み化しておくことで、継続的な運用が可能になります。
営業資料での再利用・再構成のアイデア
一度制作した導入事例は、営業資料として再編集・再構成して活用するのが効果的です。
特にBtoBの営業現場では、商談相手の業種や課題に応じて適切な情報を抽出して提示する柔軟性が求められます。
「事例」はストーリーを簡潔に要約し、「実績」は見せたい成果数値を抽出して一枚の資料にまとめると伝わりやすくなります。
営業資料化で意識すべきページ構成
導入事例を営業資料化する際は、1ページで成果が伝わる構成を意識しましょう。
たとえば「課題→導入→効果」の3ステップを1スライドにまとめ、各ステップに見出し+図解+数値+証言を配置することで、情報量を抑えながらも印象に残る内容に仕上がります。
見せ方別の事例と実績の使い分け
提案書では業界別の成功事例を中心に据える一方、展示会では成果数値を大きく見せて注目を集めるなど、見せ方は状況に応じて使い分けが必要です。
社内ではプロジェクト成功事例として実績共有に、Webサイトでは導入の流れを丁寧に説明する構成で見せると効果的です。
顧客承諾取得のフローと社内チェックリスト
導入事例BtoBを公開するには、顧客からの正式な承諾を得ることが必要不可欠です。
とくに「実績」には企業の成果情報が含まれるため、社外公開に慎重な企業が多く、丁寧な段取りが求められます。
さらに社内でも、情報の正確性や承諾文面の整合性を確認するために複数部門との連携が必要です。
ここでは、承諾取得のためのフローと、社内でのチェック項目について整理します。
社外公開時の文面テンプレート例
顧客の承諾を得る際には、公開予定の内容を記載した確認用文面を提示するのが一般的です。
たとえば「導入背景」「実施内容」「成果(実績)」「顧客企業名・担当者名の掲載有無」などを網羅した文書を用意し、書面またはメールで同意を得る形をとります。
テンプレート化しておくことで、毎回の対応工数を削減できます。
社内チェックフローと承認プロセスの設計
社内チェックでは、情報の正確性・承諾の有無・デザインの確認など複数の観点を踏まえる必要があります。
通常、営業→マーケ→法務の順に回付するケースが多く、それぞれの部門での承認が済んでから公開に進むのが通例です。
このプロセスをワークフローとして明文化し、誰が何をいつ確認するかを明確にすることで、社内の混乱やトラブルを未然に防ぐことができます。
まとめ:事例と実績を活かしたBtoB導入事例制作で成果を出すには
BtoB企業が導入事例を制作する際、「事例」と「実績」の違いを理解し、それぞれを適切に活用することが成果に直結します。
事例は背景や取り組みの流れを伝え、読み手の共感と理解を生み出し、実績は数値や証言で信頼性を担保する役割を果たします。
制作のプロセスでは、社内調整・データ収集・構成設計・承諾取得といった多くの要素を整理しながら進める必要があります。
そのためには、ヒアリングテンプレートや承認フローなどを整備し、社内の共通理解を得たうえで進行することが重要です。
また、完成した導入事例は、営業資料やウェブサイト、展示会などさまざまなシーンで二次利用できるように設計し、営業活動やマーケティング活動の成果に結びつける必要があります。
「事例」と「実績」を正しく活かすことで、貴社の価値を効果的に伝える導入事例制作が実現できるでしょう。