企業が自社の商品やサービスの導入事例を公開する際、お客様からの同意書を取る必要があります。
しかし、どのような内容を盛り込めばよいのか、どのタイミングで取得するべきか、そして法的な観点から何に注意すべきかなど、悩む企業担当者も少なくありません。
導入事例の同意書は、トラブルを避けつつスムーズに事例を公開するために欠かせない書類です。
この記事では、導入事例の同意書に関する基本的な知識から、作成・取得・運用の実務までを徹底的に解説します。
目次
導入事例の同意書とは何か?その基本と重要性
導入事例の同意書とは、顧客企業が自社の事例として情報を公開されることに合意したことを証明する文書です。
この同意書には、公開される情報の範囲や利用目的、掲載期間などが明記されており、企業間の信頼関係のもとで成り立っています。
書面でしっかりと合意を取っておくことで、公開後のトラブルや誤解を未然に防ぐことができます。
たとえば、「社名は出さないでほしい」や「写真は顔が写らないように」など、顧客側が希望する条件を明文化することで、互いに安心して事例公開を進められます。
さらに、同意書があることで、社内での確認プロセスも明確になります。
営業担当やマーケティング担当が「この顧客は導入事例として掲載許可を得ている」と共有できるため、運用面でも重要な役割を果たします。
導入事例の同意書が必要な理由と法的背景
導入事例の同意書が求められる背景には、顧客の情報を無断で公開することによる法的リスクが存在します。
たとえば、企業名、担当者名、顔写真、業務内容といった情報は、個人情報保護法や著作権法、場合によっては営業秘密に関連する法令の対象となります。
これらの情報を許可なく公開してしまうと、法的な責任を問われる可能性があるのです。
また、導入事例は営業や広報など様々なシーンで活用されるため、情報の扱いに慎重になる必要があります。
公開前に同意書を取り交わすことで、「この情報は承諾済みである」という証拠を残すことができ、リスクヘッジにもつながります。
結果として、顧客との信頼関係を維持しながら、安心して導入事例を活用できるようになります。
導入事例の同意書と個人情報保護法の関係
個人情報保護法では、特定の個人を識別できる情報を収集・利用・提供する際に本人の同意が必要とされています。
企業が導入事例を公開する際、担当者名や顔写真、部署名などが含まれることがあり、これらは個人情報に該当します。
このため、顧客担当者から正式に同意を得ておくことが法律上必要です。
仮に同意なくこれらの情報を掲載してしまった場合、企業は個人情報保護法に違反するリスクを抱えることになります。
同意書を文書として取り交わすことで、後から「聞いていない」「了承していない」と言われるリスクも軽減できます。
安心して事例を活用するためにも、法令遵守の観点から同意書の取得は不可欠です。
導入事例の同意書と著作権・肖像権の関係
導入事例で使用される写真や動画には、著作権や肖像権が発生することがあります。
たとえば、顧客のロゴマーク、オフィス写真、人物写真などは、そのまま掲載すると権利侵害となる恐れがあります。
特にロゴや資料は顧客企業の著作物にあたるため、無断使用は避けなければなりません。
また、人物が写っている場合は肖像権の配慮も重要です。
同意書に「どの写真をどこまで使うのか」「修正やモザイク処理の有無」などを明記しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
導入事例を円滑に進めるには、権利関係を整理したうえでの同意が不可欠です。
導入事例の同意書に記載すべき基本項目
導入事例の同意書を作成する際は、必要な情報を網羅的かつ明確に記載することが重要です。
記載すべき基本項目は、顧客との合意範囲を明文化し、誤解やトラブルを未然に防ぐ目的があります。
主な項目には、企業名・担当者名・掲載内容・利用目的・掲載媒体・掲載期間・修正要望の扱い・署名日などがあります。
これらを漏れなく含めることで、社内外の確認プロセスもスムーズになります。
特に、掲載範囲や媒体、期間に関しては、後から問題になりやすいため、丁寧に記述することが求められます。
次の見出しでは、それぞれの項目について具体的な記入例を挙げて解説していきます。
記載項目ごとの記入例
導入事例の同意書に含めるべき各項目について、具体的な記入例を交えて解説します。
まず、企業名と担当者名は、事例に登場する実在の名称で記載し、必要に応じて仮名表記や匿名希望の扱いも選択肢として提示することが大切です。
掲載内容は、「企業名の表示可否」「写真の使用」「製品名の言及」などを詳細に確認し、同意範囲を明文化します。
利用目的には「Webサイト掲載」「営業資料」「SNS投稿」など、用途ごとに明記し、媒体ごとの扱いに関する誤解を避けましょう。
また、掲載期間は「公開日から1年間」「撤回要請があるまで有効」など、明確な記述が求められます。
それぞれの例は次の見出しでさらに詳しく掘り下げて解説します。
企業名・ブランド名の取り扱い
同意書において企業名やブランド名をどのように掲載するかは、顧客のブランディングや社内規定に直結する重要なポイントです。
「○○株式会社」と正式社名を明記するのか、「大手製造業様」のようなぼかした表現にするのか、事前に確認しておく必要があります。
また、ブランド名の掲載に対しては、製品戦略や販売チャネルとの兼ね合いで社内調整が必要なケースもあります。
顧客側が「社名は出していいが製品名は控えてほしい」といった要望を出すこともあるため、項目を個別に明示し、同意を取得する形にしておきましょう。
こうした配慮が、事例公開後の関係維持にもつながります。
画像・動画・ロゴの掲載範囲
画像や動画、ロゴの使用については、同意書で必ず掲載範囲と目的を明確にすることが必要です。
たとえば、社員の集合写真やオフィス外観、作業風景などは、肖像権や社内機密に触れる場合があります。
掲載する画像の一覧をリスト化し、「この画像はWebで使用」「この画像は内部資料のみ」など、用途ごとの許可を明記するとトラブル回避になります。
ロゴの使用についても「白背景の使用に限る」「トリミング不可」など、ブランドガイドラインに沿った扱いが求められる場合があります。
視覚要素の扱いは顧客の印象にも直結するため、丁寧な確認と記載が欠かせません。
掲載媒体と期間の明示
同意書には、導入事例を掲載する媒体と、その掲載期間を必ず明記しましょう。
掲載媒体はWebサイト、パンフレット、プレゼン資料、SNSなど多岐にわたります。
それぞれの媒体で掲載する情報の内容や頻度も異なるため、媒体ごとに用途や表現を確認・同意することが重要です。
掲載期間についても、「○年○月まで」「削除要請があるまで」といった具体的な期間を記載することで、後々のトラブルを防げます。
次の見出しでは「期間の定義と更新」「媒体に応じた記載上の注意点」について詳しく見ていきましょう。
期間の定義と更新について
導入事例の掲載期間は、同意の有効性や公開の可否に直接関わる要素です。
「掲載期間:無期限」とすることも可能ですが、企業によっては数年後に情報の見直しや削除を希望するケースもあります。
そのため、同意書には「○年○月まで」「○○のタイミングで更新確認を行う」など、期間と更新ルールを明示しておくことが望ましいです。
更新の意思確認がなければ自動で掲載停止とするなど、明文化された運用ルールを整えることで、信頼関係の維持につながります。
将来的な問い合わせ対応の負担も軽減されるでしょう。
媒体に応じた記載上の注意点
同じ情報でも、掲載する媒体によって読者層や公開範囲が大きく異なります。
たとえば、企業サイトは不特定多数に閲覧される可能性があるのに対し、営業資料は特定の顧客にのみ配布されます。
この違いを理解したうえで、媒体ごとの掲載可否を確認することが肝要です。
たとえば「社名は資料OK、Web掲載は不可」といった細かい希望にも対応できるよう、媒体別に許諾欄を設ける形式にすると便利です。
SNSでの二次拡散や検索エンジンへの露出など、インターネット特有のリスクも視野に入れておくと安心です。
導入事例の同意書を作成する際の注意点
導入事例の同意書を作成する際には、いくつかの注意点を押さえることが大切です。
まず、内容が曖昧にならないように「何を、誰が、どこで、どのように」使うのかを明確に記載する必要があります。
次に、法務部やコンプライアンス部門など、社内関係者との連携を事前に取っておくことで、内容の整合性と有効性が担保されます。
また、顧客ごとに事情や社内ルールが異なるため、テンプレートをそのまま流用せず、都度内容を確認・カスタマイズすることが重要です。
さらに、記載内容を難解な法律用語でまとめてしまうと、顧客側が理解しづらく、同意を得る際に支障をきたす場合があります。
わかりやすく、かつ双方にとって納得感のある内容に仕上げることが、良質な導入事例制作の第一歩です。
導入事例の同意書を得るまでのフローとタイミング
導入事例を制作するにあたり、同意書の取得タイミングは成功の鍵を握ります。
多くの企業では、導入効果が見えた段階で導入事例を作成し始めますが、同意書の取得はそのもっと前段階から検討すべきです。
具体的には、プロジェクトの初期段階、もしくは受注時に「将来的に事例として取り上げたい」という意向を示しておくことが推奨されます。
そうすることで、顧客側も「事例化されるかもしれない」という前提で関係構築を進めることができ、公開時の同意取得がスムーズになります。
次に紹介する2つの場面では、特に同意取得のタイミングに注意が必要です。
プロジェクト開始時の説明が重要
導入事例の同意を得るためには、プロジェクト開始時に「事例化の可能性がある」旨を共有しておくのが理想的です。
この段階で口頭でも構いませんが、意向確認のメールや議事録に残しておくと、後からの確認がスムーズです。
また、顧客側の社内調整や稟議に時間がかかることもあるため、早めのアプローチが結果的に全体スケジュールの遅延回避につながります。
さらに、事例化に前向きな顧客であれば、必要な情報の取得や写真撮影なども並行して進められるというメリットがあります。
開始時点で信頼関係を築き、段階的に合意形成していくことが重要です。
事例公開直前では遅すぎる理由
導入事例の同意書を「事例完成後」に取得しようとすると、多くの場合で問題が発生します。
理由の一つは、顧客が「完成した内容を見て初めて公開を知る」ことによる驚きと不信感です。
また、掲載内容に修正が必要となった場合、事例の修正や差し替えに時間がかかり、リリーススケジュールに影響を与えるリスクがあります。
さらに、顧客社内での承認プロセスに時間がかかるため、直前の依頼では間に合わないことも少なくありません。
このようなトラブルを避けるためにも、事例制作の初期段階、あるいは導入直後から計画的に同意取得の話を進めておくべきです。
「公開直前のお願い」は避け、余裕をもったスケジューリングを心がけましょう。
導入事例の同意書テンプレート活用のメリットと注意点
導入事例の同意書はゼロから作成するのではなく、テンプレートを活用することで効率的かつ正確に作成できます。
特に複数の顧客に導入事例を依頼するような場合には、統一された書式が社内外の確認をスムーズにします。
ただし、テンプレートの使用には注意点もあります。
顧客によって同意の範囲や条件が異なるため、テンプレートの項目を機械的に使い回すだけでは不十分です。
必要に応じてカスタマイズし、顧客の事情や希望に合わせた記載内容にすることが大切です。
次の見出しでメリットと注意点をそれぞれ具体的に解説します。
テンプレート活用の3つのメリット
テンプレートを活用することで、導入事例の同意書作成がより効率的かつ確実になります。
1つ目のメリットは「作業効率の向上」です。
毎回1から文章を作成する必要がなくなり、確認や修正の工数を削減できます。
2つ目は「漏れ防止」です。
記載すべき項目が網羅されているテンプレートを使えば、重要な内容を抜かすリスクが減ります。
3つ目は「社内の書式統一による管理性向上」です。
部署間や担当者間で内容やフォーマットが異なると、運用面で混乱が生じる可能性があります。
統一テンプレートを使用することで、情報の管理・共有がスムーズになります。
テンプレート利用で注意すべき点
テンプレートには多くの利点がありますが、機械的に使ってしまうと逆にトラブルの原因になることもあります。
特に注意すべきなのは、「顧客ごとの事情や希望に対応しきれないケース」です。
たとえば、業界によっては社名や写真の公開に非常に敏感な場合があり、テンプレートの表現が不適切になることがあります。
また、テンプレート内に専門用語や社内用語が多用されていると、顧客にとってわかりにくく、納得のいく合意形成が難しくなります。
テンプレートはあくまで「たたき台」として使い、都度見直しとカスタマイズを行うことが重要です。
導入事例の同意書取得におけるトラブル事例と対処法
導入事例の同意書取得はスムーズにいくとは限りません。
実際の現場では、さまざまなトラブルが発生することがあります。
よくあるのは「急な社内事情により同意が取り消された」「事例公開後に内容の修正要請があった」といったケースです。
こうした事態に備え、想定されるトラブルとその対処法を事前に知っておくことが重要です。
次の見出しで、具体的なトラブル事例を2つ紹介し、どのように対応すべきかを解説します。
同意が得られなかったケース
顧客から導入事例の同意が得られないケースは、決して珍しいことではありません。
たとえば、「自社の導入状況を競合に知られたくない」「社内の承認が下りない」といった理由から、公開を拒否されることがあります。
このような場合に重要なのは、「無理に公開しようとしないこと」です。
信頼関係を損ねる行為は、長期的なビジネスに悪影響を及ぼします。
代替策として、匿名形式での掲載や、事例内容を抽象化した紹介方法を検討すると良いでしょう。
「業種や企業規模だけを出す」「具体的な成果は数値化せずに表現する」といった工夫で、活用できる導入事例に変換できる可能性があります。
掲載後に削除要請が来たケース
導入事例を公開した後、顧客から「削除してほしい」という連絡を受けることがあります。
理由としては、社内体制の変更、競合からの問い合わせ、または広報・法務部門の意向によるものなどが挙げられます。
このような場合は、顧客との信頼関係を守るためにも、速やかに対応することが最優先です。
その上で、事前に同意書へ「掲載後の変更・削除に関する取り決め」も記載しておくと、対応時の混乱を防げます。
たとえば「要請があった場合は2営業日以内に削除する」といった明文化があれば、社内でも迅速な判断ができます。
同意書は公開前の安心材料であると同時に、万が一のリスクにも備える重要なツールです。
まとめ:導入事例の同意書は制作成功の鍵
導入事例の制作において、同意書の存在は単なる形式的な書類ではありません。
それは顧客との信頼関係を築き、スムーズな情報共有と安心できる広報活動を実現するための要となります。
法的なリスク回避はもちろん、社内の運用効率化、顧客対応の明確化にもつながる重要なドキュメントです。
本記事で紹介した通り、作成時には記載項目の網羅性、取得タイミング、テンプレートの活用とカスタマイズ、トラブル対応まで多くの観点が求められます。
今後導入事例を活用し、広報や営業を強化していく企業にとって、同意書の整備と運用体制は必須事項といえるでしょう。
実務にすぐ活かせるよう、本記事の構成や例文を参考に、自社に最適な形で導入していくことをおすすめします。