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事例とユースケースの違いと関係性
事例とユースケースは、似て非なる概念としてしばしば混同されがちです。
しかし、導入事例の制作においてこの2つの違いを理解していないと、訴求軸がぶれてしまい成果に繋がらないことがあります。
このセクションでは、定義の違いを明確にした上で、それぞれの関係性について整理します。
「事例」と「ユースケース」の定義の違い
「事例」とは、ある企業が製品やサービスを導入して得た結果や効果を具体的に示すものです。
対して「ユースケース」とは、その製品やサービスがどのように使われ、どのような課題を解決したかという活用のシーンを指します。
つまり、事例が「成果」にフォーカスするのに対し、ユースケースは「活用プロセス」に焦点を当てています。
事例とは:導入結果の紹介
事例は、導入したことによって得られた結果や定量的な効果を中心に構成されます。
たとえば「売上が20%増加」「業務時間が30時間短縮」といった成果が明示されることが一般的です。
これらは購買の意思決定を後押しする要素として非常に重要です。
ユースケースとは:活用シーンの具体化
一方でユースケースは「誰が」「どんな状況で」「どうやって使っているか」という活用の場面を描写します。
実務担当者が使用する場面をイメージできることで、導入後のリアルな活用像が明確になります。
結果だけではなく、そのプロセスや使い方が明示されているかが信頼性を左右するのです。
具体例:SaaS製品における事例とユースケースの対比
たとえば勤怠管理クラウドシステムの導入事例では、「月100時間の集計作業を10時間に削減」といった成果を記載します。
一方ユースケースとしては、「人事部のAさんが、日次で各部門の打刻状況を確認し、月末に自動集計を活用している」などの活用シーンを描きます。
このように、どの部門がどう使っているかまで明確にすることで、導入の再現性が高まるのです。
ユースケースが不明確な事例が伝わらない理由
ユースケースが曖昧な導入事例は、読者にとって「自社にとって使える話なのか」が判断しづらくなります。
特にSaaSやIT系商材の場合、機能や成果だけではなく、どのような文脈で活用されたかが重視されます。
ユースケースが描かれていないと、読み手は具体的な活用イメージを持てず、共感も得られません。
ペルソナと紐づけて考える重要性
ユースケースは、ターゲットとなるペルソナとセットで考える必要があります。
「部長クラスが数値を見る場面」「現場担当者が日次で入力する場面」など、役割別に活用像を示すと伝わりやすくなります。
汎用的な事例よりも、ターゲットが共感しやすい具体的シーンが重要です。
再現性のない成果は信頼されない
「成果」は魅力的なフレーズですが、その背景が見えないと信用されません。
なぜ成果が出たのか、どんな使い方をした結果かを示すことで、「自社でもできそう」という再現性を担保できます。
これこそがユースケースを事例に取り入れる最大の意義です。
ユースケースを起点とした事例設計の基本
導入事例を設計する際、最初に意識すべきはユースケースの特定です。
どのような課題に対してどのように活用されたのかを起点にすることで、論理的で共感性のある構成を組み立てることができます。
特に複数のターゲット層に届けたい場合には、ユースケースごとにストーリーを分岐させることも重要です。
ユースケースから逆算する事例構成フレームワーク
導入事例の構成は、ユースケースから「Before(課題)」「During(活用方法)」「After(成果)」の3段階で構成すると効果的です。
読み手は自分の状況と照らし合わせながら読み進められるため、訴求力が格段に上がります。
この構成はBtoBマーケティングにおいて特に有効で、ストーリーとしても自然な流れとなります。
導入前:どんな課題があったのか
導入事例の出発点は「どのような課題を抱えていたのか」です。
ここを具体的に描けないと、読み手の共感を得ることはできません。
たとえば「作業が属人化していた」「Excel管理でエラーが多発していた」など、実態のある言葉で表現しましょう。
例:属人化・工数・品質のバラツキ
業務が特定の個人に依存していたり、手作業による工数が膨らんでいたりするケースは多く見られます。
品質にバラツキがあるという課題も、ユースケースの起点として頻出です。
こうした背景を明示することで、読者は「自分ごと」として捉えやすくなります。
導入中:どう活用されたのか
次に重要なのが、導入した製品やサービスがどのように使われたのかという活用シーンの描写です。
単に「導入した」だけではなく、「誰が」「どのように」「いつ」「何のために」使ったのかを明らかにする必要があります。
読み手が自社の状況に照らしてイメージしやすくなるように工夫しましょう。
例:社内のどの部門で、どのように運用されたか
たとえば「人事部門が月初にダッシュボードで確認」「営業部が出先からスマホで入力」など、具体的な使われ方を示すと効果的です。
使っている部署・タイミング・手順を明示することがポイントです。
これにより、製品の実際の活用力を伝えることができます。
導入後:どんな成果があったのか
最後に、導入によって得られた成果を示すことで、読み手の「導入後の未来像」を後押しできます。
この際、成果は数値と定性的なコメントをセットで記述すると効果的です。
感覚ではなく、根拠ある改善がなされたことを伝えることが重要です。
例:作業時間削減・顧客満足度の変化・売上アップ
たとえば「月50時間の作業が10時間に削減」「クレーム件数が1/3に」「クロスセル率が2倍に」などが典型的です。
その成果がユースケースに対してどのように実現されたのかを明示しましょう。
説得力のある事例は、必ず「成果=効果」の裏付けが具体的です。
ユースケースを抽出するための社内プロセス
導入事例をユースケースベースで設計するためには、まず最初に社内でどのような活用シーンが存在しているかを正確に把握する必要があります。
特に製品やサービスが多機能であったり、複数部門にまたがって利用されている場合は、社内の横断的な情報共有が欠かせません。
この章では、ユースケースを的確に抽出するための社内プロセスと、その進め方について解説します。
部門横断で行うユースケース洗い出し会議の設計
ユースケースの抽出は、営業部門だけに任せるのではなく、カスタマーサクセス(CS)や開発、マーケティングなど、製品に関わるあらゆる部門の知見を集めて行う必要があります。
こうした会議を設計する際には、テーマの絞り込みや役割分担も重要です。
議論を活性化させ、具体性のあるユースケースを抽出するための工夫を取り入れましょう。
必要な関係者の選定と巻き込み方
CSはユーザーの声に最も触れている部門であり、営業は課題や導入の背景を把握しています。
プロダクト担当者は、実際にどのような機能がどう使われる設計になっているかを知っています。
こうした多様な立場のメンバーをバランス良く招集し、それぞれの視点からユースケースを持ち寄ることが重要です。
営業・CS・マーケ・開発の役割分担
営業:導入背景と導入目的の情報を持っている
CS:導入後の実際の活用状況と改善提案の知見を持つ
マーケ:顧客インサイトやターゲティング軸を理解している
開発:どの機能が実際に使われているかを把握している
会議ファシリテーションのポイント
ユースケースの洗い出し会議では、単なる意見の共有に終始しないよう、ファシリテーターが議論を整理することが重要です。
具体的な問いかけや、カテゴリ分けを意識して進行することで、成果の出る会議に仕上がります。
課題ベースの問いかけ・活用シーンの掘り下げ方
例:「こんな業務の悩みをよく聞くが、それに対してこの機能はどう使われているか?」
「実際に導入後、最も評価された活用方法は?」
こうした切り口から話すことで、具体的な場面に落とし込みやすくなります。
社内ドキュメントからユースケースを拾い出す方法
ユースケースは会議だけでなく、社内の既存ドキュメントからも抽出できます。
特にナレッジベースやFAQ、チャットログ、CSの報告書などは宝の山です。
これらの情報を分析し、よくある質問や問い合わせからユースケースを整理しましょう。
ユースケーステンプレートの作成と共有
抽出したユースケースは、テンプレートに整理しチームで共有すると効果的です。
テンプレートには「課題」「活用シーン」「成果」「対象ユーザー」などの項目を設けましょう。
統一された形式で情報が蓄積されることで、事例制作時にも再利用しやすくなります。
インタビューでユースケースを引き出す質問設計
ユースケースを軸にした導入事例を制作する上で、インタビューは最も重要な工程の1つです。
特にBtoBの製品やサービスでは、活用の背景や運用フローが複雑なため、事前準備と質問設計が完成度を大きく左右します。
この章では、インタビューでユースケースを効果的に引き出すための準備と質問設計の方法を解説します。
インタビュー事前準備でやるべきこと
インタビューの前にやるべきことは、既存の情報の整理と仮説の立案です。
営業担当やCSからの社内情報を集め、どのような活用が行われていそうかを仮に想定しておきます。
また、インタビュー対象者が使っている機能や、現場での立場・役割も把握しておく必要があります。
ヒアリングシート作成の要素
ヒアリング項目は、主に以下の5要素に整理しておくと効果的です:
- 業務課題:導入前にどのような悩みや課題があったか
- 導入背景:製品選定や導入の決め手になったこと
- KPI:効果を測定する基準や目標
- 活用方法:実際に誰がどう使っているか
- 成果:定量的・定性的な変化
これらを整理して事前にインタビューシートを作成しておくことで、ヒアリング中に焦点がぶれず、必要な情報を効率よく引き出すことができます。
ユースケース別質問テンプレートの例
実際のインタビューでは、ユースケースごとに質問の切り口を変えると効果的です。
たとえば、業務効率化が主目的の導入と、顧客満足度の向上が目的の導入では、聞くべき観点が異なります。
以下にテンプレートの一例を示します。
BtoB向け/BtoC向けの違いと設問調整例
BtoB向けの質問例:
- 導入前、どの業務に一番負荷を感じていましたか?
- その業務を誰が担当していましたか?
- 導入後、具体的にどのように変わりましたか?
BtoC向けの質問例:
- ユーザーからどんな声が寄せられていますか?
- 特定の機能や使い方で好評なポイントはありますか?
- クレームや問い合わせ件数に変化はありましたか?
このように、業種や活用目的に応じて質問をチューニングすることで、インタビューから得られるユースケースの質が格段に高まります。
ユースケース中心の事例を活かした営業・マーケティング施策
ユースケースを軸に制作された導入事例は、単なる読み物ではありません。
営業資料としての提案力や、マーケティングでのコンバージョン向上に直結する重要なコンテンツ資産です。
この章では、営業とマーケティングの両面で導入事例を最大限に活用する方法を紹介します。
営業資料にユースケースを反映させるポイント
提案資料に導入事例を盛り込む場合、ユースケースごとにセグメント化された事例を用意しておくことで、見込み顧客ごとの課題に直接訴求できます。
「業種別」「部門別」「目的別」など、実際に顧客が抱える悩みに近い構成にしておくと、提案の説得力が増します。
営業プレゼン内での事例提示タイミング
事例は「課題整理」や「製品紹介」直後に提示するのが効果的です。
「こうした課題を抱える他社では、こんな形で活用しています」と話すことで、見込み顧客の興味を引き出せます。
タイミングが早すぎると製品理解が不十分なまま伝えてしまうため、適切な流れを意識しましょう。
営業トークでの「この事例を見せたい場面」整理法
営業現場で事例を使いやすくするには、「この業種でこういう課題が出たらこの事例を使う」というマッピングが重要です。
スプレッドシートやデータベースでユースケース別に事例を整理し、検索性を高めましょう。
営業メンバーが直感的に事例を引き出せるようになると、提案の質が底上げされます。
ウェブやホワイトペーパーでの事例活用法
ユースケースに基づいた事例は、ウェブサイト上での掲載やホワイトペーパーにおいても非常に有効です。
検索意図や閲覧者のステージに合わせて、適切なユースケース事例を提示することでコンバージョン率を高めることができます。
ユースケース別にCTAを変える方法
たとえば「業務効率化」のユースケースには「同じ課題を解決した事例を見る」などのCTAが適しています。
「売上向上」のユースケースなら「売上改善事例を無料ダウンロード」などの訴求が効果的です。
ユースケースごとにCTAや導線設計を工夫することで、コンテンツの成果を最大化できます。
例:導入検討中ユーザーには定量成果、検討初期には使用プロセス
導入検討の終盤にいるユーザーは成果データを重視するため、定量的な効果にフォーカスした事例を提示しましょう。
一方、検討を始めたばかりのユーザーには、活用プロセスがわかるユースケース事例が有効です。
フェーズに応じて訴求する切り口を切り替えることが重要です。
まとめ:事例とユースケースを結びつけて成果を最大化するために
導入事例の効果を最大化するためには、単なる結果報告に留まらず、「どのように使われたのか」というユースケースに基づいた構成が不可欠です。
ユースケースを起点にすることで、読み手が自社の状況と重ね合わせて活用イメージを持ちやすくなり、結果として資料の訴求力やコンバージョン率も向上します。
本記事で紹介したように、社内からの情報収集、構成設計、インタビュー、活用方法に至るまで、一貫してユースケースの視点を持つことが重要です。
ユースケースを理解・定義し、それに基づいた事例制作・運用を行うことで、営業・マーケ双方で成果を出せる導入事例コンテンツが完成します。